書評。「プログラミングのための線形代数」。予備校の数学。地上界へ下りた数学。期末テストのための数学。

平岡和幸、堀玄「プログラミングのための線形代数」オーム社、2004年。最近の予備校の先生はこんな感じの講義をしているのだろうか。質問に丁寧に答える。分からないことがあっても心配させない。どこを復習すればよいか親切に教える。至れり尽くせりの本。それだから、350ページの大部になる。装丁もコンピュータの本そのもの。

非難しているわけではない。笠原晧司の本もたしか、学生が質問する形式になっていた。教育的配慮をするならば、学生の質問を先取りして、それに答えるのも一案だろう。それにしても、この形式を高木貞治先生はなんというだろうか。

本書には確かに例題が多い。読者が手計算で理論を確かめるのに時間を使っている。ただし、”プログラミングのための”と称しているが、著者も認めているように、素人がプログラミングするより、プロが書いたプログラムを使え、と言っている。本当は、”プログラミングのため”ではなく、普通の数学の本。線形代数の入門書なのだ。

そう、線形代数の入門書として、本書は出色。学生(それも単位取りに悪戦苦闘している)に、オススメできる。

線形代数の入門書としては、齋藤正彦の本(東大出版会)が世間を席捲している。しかし、これは1960年代後半の東大生には良いが、21世紀の大学生には難すぎる。(齋藤正彦のまえは、佐武一郎がはやっていた。そのまえは、遠山啓。)20世紀の数学の本の典型。

これらを比べると、平岡・堀の本の問題点も浮かび上がってくる。本書を読んで、線形空間のイメージが浮かばないのだ。数学の抽象性を犠牲にしている。頭脳の遊びではなく、机上での計算に固執している。いいかえると、数学を天上界の仮想空間から、地上界の泥臭い世間話にしてしまった。期末テストのために数学はあるのだろうか。線形数学の作り出す美的空間をたのしむ、これが本来の数学ではないのだろうか。

ともあれ、面白い本ではある。読者すべてが数学者になるわけではないので(齋藤正彦の本は数学者予備軍向けの本!)、こんな本もあってよいだろう。読んで気分は良くなる。

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