「津波の速度はジェット機なみ」の誤解。流体力学のお勉強。(その44)

津波の速度はジェット機なみの速さである、との「風説」が出回っている。専門家さえ自信ありげに述べている。この「風説」は物理学の基本を理解していない半可通がいっているだけで、世間に誤解を及ぼしている。正そう。

自分の頭で考えてみよう。今回、宮城県などに押し寄せた津波のビデオを見たひとがたくさんいるだろう。津波はジェット機なみの速度で押し寄せたか。否。秒速数メートル程度であった。

そう、われわれにとって、一番大事なのは沿岸部での津波の速度であって、それは秒速数メートルというのが正しい。専門家は何を言っていたのか。専門家は、水の波(表面波)の速度が、重力加速度をg として、

          c = sqrt(gh)                           (1)

で表されるので、水深 h として数千メートルの数値を代入して、津波の速度 c を計算しているに過ぎない。これは不正確、というより、むしろ、間違いに近い。

なにが間違っているか。

1.上記の速度を表す式を導出したときには、時間はパラメータに入っていない。定常問題に関する方程式を論じているだけである。本来なら、初速度ゼロの状態からの初期値問題として定式化、解析をしなくてはいけない。

 地球の反対側のチリで発生した津波が何時間もたって太平洋の中心に来た位時間がたっていたならば、定常性の仮定は成り立つだろう。しかし、三陸沖の100-200キロメートルの地点で発生した時の日本近海での津波の速度について、この式を適用してはいけない。

 速度ゼロで止まっている水が(当然、波の速度もゼロ)、その底が隆起した初期条件を与えられたとき、水深数千メートルであるとしても、一瞬にしてジェット機なみの速度を持つだろうか。初速ゼロから秒速数百メートルになるには時間がかかる。こんな時間がたつ前に、津波は三陸海岸に押し寄せている。

2.津波も表面波(重力波)のひとつである。表面波では分散関係式が基本的である。これは、次の式で表される。

          c^2 = (ω/k)^2 = (gλ/2π)tanh(2πh/λ)          (2)

 しかし、津波は孤立波の性質を持っているので、この波長λ の特定が難しく、この式の適用には不向きである。したがって、(1) 式の適用自体さえ問題があるのだ。津波の波長は簡単には定義できない。(なぜ周期ができるのか分かっていない。)

3.やはり、津波の本質は、Cauchy-Poisson の問題として考えるのが適当である。または、ダム決壊の流体力学が津波の本質を表す現象にちかい。すなわち、津波の速度は(1)式で与えられるとしても、深さh の値は、震央(津波発生地点)の海底の隆起の量、すなわち、数メートルとするのが妥当なところだろう。

4.それにしても、「津波の速度はジェット機なみ」と発言する科学者はその資質を疑う。なんのためにこの数値を喧伝するのか。太平洋の中心での波の速度など、当面の関心事ではない。海岸に迫り来る波の速度の方がよっぽど重要である。太平洋の中心でジェット機なみの速度なのに、日本に届くとなぜ秒速数メートルになるのか。その減速機構こそ解析すべきだ。ほんとうにこんなに減少するのか。水の慣性(質量)はどう効くのか。「波長」は定義できるのか。物理の本質をもっと考えなくてはいけない。式の裏にある物理現象をしっかり考えよう。

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津波発生時の波の形(その2)。流体力学のお勉強。(その43)
http://44579446.at.webry.info/201104/article_4.html

津波発生時の波の形。流体力学のお勉強。(その42)
http://44579446.at.webry.info/201104/article_3.html

水の波の速度。流体力学のお勉強。(その41)
http://44579446.at.webry.info/201103/article_31.html

海の波の不思議(その2)。流体力学のお勉強。(その40)
http://44579446.at.webry.info/201103/article_29.html

陸上を走る津波の速度。流体力学のお勉強(その39)
http://44579446.at.webry.info/201103/article_28.html

高速道路における衝撃波Shockの形成。流体力学のお勉強(その38)
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新燃岳「空振」の物理学。怖いのは熱。流体力学のお勉強(その35)。
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新燃岳「空振」の物理学。衝撃波の伝播速度。流体力学のお勉強(その32)。
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